胃ろうの終末期の高齢者の幸せについて考えた

2019年8月30日介護

こんにちは。たくろうです。

介護福祉士として有料老人ホームで勤務して9年目ですが、改めて胃ろうの利用者さんの幸せについて考えることがあります。
僕の勤務している施設でも胃ろうの利用者さんはいらっしゃいますが、皆さん寝たきり+拘縮が当たり前。
嚥下能力が下がっていますので痰の吸引は普通に必要。
終末期の高齢者ですので、ここから爆発的に嚥下能力が回復する見込みなどなく、ただ寝たきりで定期的に口腔・排泄・体位変換のケアを受けるだけ。

介護をしながら、幸せってなんだろうと考えてしまう次第です。

この記事では胃ろうの利用者さんの幸せについて僕なりに考えつつ、もしご自身の家族を胃ろうにするか否かの選択を迫られている方がいらっしゃれば、その方の考えの一助となれば幸いです。

人間の幸せって何だろう

皆さんにとって幸せとは何でしょうか。
札束の詰まったバスタブに浸かりながらチャンネーをはべらせたり、いい車乗って旨いもん食って良い女抱いて、的なものでしょうか。え? 僕がゲスすぎるだけ? すみません。

人の数だけ様々な「幸せ」があると思いますが、僕はきっと日々の生活それ自体が幸せなんだと考えます。
毎日ものすごい僥倖がドカンドカンとやってくるわけではないけれど、辛いこともたくさんあるけれど、毎日生きていること、それ自体が幸せなんじゃないかと。

僕なんてTwitterで「いいね」が付いただけで普通に嬉しいですし、リプなんてまだきたことがないので、貰った日には嬉ションしちゃうと思います。
また、疲れて帰ってきて安いツマミを作って安酒を飲む。それだけでもある程度幸せです。

ただなんでもない日常を過ごす。
こういった何気ないことが幸せなんだと思います。

マズロー氏の提唱する欲求5段階説での幸せの定義

アメリカの人間心理学の権威にアブラハム・マズローという学者がいます。
この人は「人間には5段階の欲求があり、1つの欲求が満たされると次の欲求を満たそうとする心理が働く」と提唱しています。

マズローの欲求5段階説

見て頂いたままの感じなんですが、食べる・寝る・排泄する等の生理的欲求が満たされないと、次の身の危険を守るという安全欲求が満たされないというお話ですね。
むちゃくちゃお腹が空いてたら危険(安全欲求)を顧みず獲物を取りにいくよねと。
むちゃくちゃウンコしたくなったら最悪野グソという選択肢(社会的欲求を放棄)もありえるよねと。

これを幸せに置き換えてみると、ご飯が食べれて幸せ(生理的欲求)、安心できる家があって幸せ(安全欲求)、最高な仲間とカノジョがいて幸せ(社会的欲求)、最高な仲間とのBBQの写真をインスタに上げて100いいね! もらえて幸せ(承認欲求)、全てを捨て仏道に入りけり(自己実現欲求)ということになります。最後のはちょっと違うかもしれないですけど。

胃ろうってなあに?

胃ろうとは、手術によって胃に穴を開け、そこから栄養剤を流し込むためにチューブ等を造設するものです。

嚥下機能に問題があるものの、胃等の臓器には問題が無いという場合に使われます。
手術自体は簡単なものらしく、かなり短い入院で帰って来れます。

胃ろうを造設したらもう生涯口からモノを食べられないのかというとそういうわけではなく、栄養剤により栄養状態が改善され、根気強くリハビリを続けることで経口摂取が可能になることがあります。
が、終末期の高齢者の胃ろうの現実は、なかなか厳しいものです。

介護士のみた終末期の胃ろう高齢者

ここで僕が勤務している有料老人ホームで関わった、胃ろうの利用者さんの状況を紹介します。
もちろんですが大分ボヤかしてますし、割と主観もはいってます。

80代男性Aさん
入居当初から胃ろうあり。当初はなんとなくのコミュニケーションがとれたり、車椅子を自身で漕いで動くことができた。
認知症があり、PEG(栄養注入口)を抜去のリスクあり。
味を楽しむ程度で、1日2回程度アイスを舐めるなどはできていたが、誤嚥性肺炎を発症。
入退院を繰り返し、現在基本寝たきり。口からの摂取なし。1日1度ベッドからの離床介助をしているが、すぐに疲れてしまう。
80台女性Bさん
認知症状が強くなり、精神科による精神薬の投薬により活動量が低下。食事の摂取が困難となり、家族の希望があり胃ろう造設。安全性確保の面からトイレ誘導もなくなり寝たきりへ。
介護の人員不足により離床時間も少なくなり、リハビリの実施不足から手足の拘縮(体を動かさないことで関節や筋肉が硬くなり可動が制限される)が強くなる。
現在全身が硬直したような状態で拘縮が起こっており、伴って皮膚状態が悪化しているため完全に寝たきり。意思の疎通不可。
70台女性Cさん
入居当初から胃ろうあり、寝たきりの状態。認知症あり。
カロリー調整が難しく、体重過多。手足の拘縮あり。

他にもたくさんの方をみてきましたが、やはり皆さん最終的には寝たきり、手足の拘縮が出てきてしまっています。
家族もほとんど会いにきません。

胃ろう高齢者の幸せってなんだろう

上記のような胃ろうの高齢者の利用者さんの幸せとは何なのでしょうか。

マズローの欲求5段階説でいうと、生理的欲求が満たされていると言えるのかすら僕にはわかりません。
口からは何も食べられず、胃に直接栄養剤が流し込まれるだけです。
排泄は僕らが決まった時間にケアを行いますが「出たものを処理するだけ」ですし、そもそも便意・尿意があるのか今となってはわかりません。
寝るといっても1日中ベッドの上です。自力で体の向きを直すことすらできずベッドの上です。

これが満たされているいえるのか。

介護士がするべき、胃ろう高齢者へのケアの理想像

少しでも胃ろうで寝たきりの利用者さんに幸せになってもらえるように、僕らができることはあります。

毎日ある程度の離床時間の確保

上記の方々は1日中ベッドで横になって、観るともなく聴くともなく垂れ流されているTVを眺めているだけ。刺激が無さ過ぎる。
やはり1日1回、2回程度はベッドから起きて頂いて、生活音の中にいて頂くというのは必要ではないでしょうか。

猫だって視点が変わるとストレスが解消されるという理由から高いところへ登るわけです。
寝たきりの方々が見えているのかどうかはわかりませんが、なんとなく環境が変わるだけでストレス解消になるはず。

拘縮のある利用者さんはベッド・車椅子間の移乗は技術を必要とされ、移乗時に怪我のリスクも確かにあります。
そこは介護技術の習得をしたり、介護士2人で移乗をしたりとリスクの軽減をはかる必要があります。
それでも僕らも人間なので、ミスをしたりすることはあるんですけどね。

もちろん利用者さんが怪我をして良いとは思いませんが、どう考えてもリスクよりも人間としての環境の変化のほうが大事だと僕は思います。

定期的なリハビリ・マッサージを行う

これも離床と同じく、1日1回でも2回でも行うべきです。
体を動かさないと拘縮が起こり、ご本人もケアをする僕らも辛くなります。

マッサージで体をほぐすことで筋肉の緊張がゆるまり、呼吸をしやすくなるというメリットもあります。
リハビリやマッサージのプロが毎日行えれば1番良いのですがなかなかそうもいかないので、僕らがケアをするときに少し腕を伸ばして差し上げるなど、やれることをやって差し上げたいところ。

高齢者は骨が脆くなっており骨が折れやすいというリスクはありますが、訪問リハビリや訪問マッサージの方から指導を受けるなどして技術として習得しておくと、自分の成長にもつながります。

口腔ケアの徹底

口を使わないと、手足の拘縮と同じく機能が低下していきます。
口の機能が低下すると唾液の分泌量が少なくなり、自浄作用が減り、雑菌が繁殖してしまいます。
口内は雑菌が繁殖する絶好の場所なので、雑菌が混ざった唾液を誤嚥してしまった場合、完膚なきまでに誤嚥性肺炎を発症してしまいます。

マッサージの意味も含めて口内の保清を徹底しましょう。

髪や体に触れる

ベタベタ触っていく、ということではないのですが、排泄ケアの時に背中をさすってあげる、ぽんぽんと叩いてあげる、それだけで背中の血流が改善します。
整容がてら顔を軽くマッサージしたり、ブラシで髪をとかすというのも血流改善に良い効果があります。

まあ、血流改善のためだけでもなく、単純に人にさすってもらったり、髪をとかしてもらうと気持ちいいですよね。
もっというと、僕らのようなアカの他人でなく、ブラッシングや手のマッサージ等を家族にやってもらえたら……本人も嬉しいはずですし、家族も本人の為にやってあげたという気持ちになれますよね。

胃ろうの栄養剤は液体ではなく半固形のものを使う。

これはちょっと介護士だけではどうにもこうにもできないのですが書いておきます。

液体の栄養剤と比べて、半固形の栄養剤はメリットが多く、最近はこちらが主流になってきています。
メリットは2つあります。1つは半固形の栄養剤のほうが逆流のリスクが少ないこと。
もう1つは、液体の栄養剤は点滴の要領でチューブからポタポタと胃へ落としていくのですが、大体60分程度かかります。その後逆流防止のため30~60分の臥床時間が必要となります。
つまり液体では1回の注入で2時間程度必要となるため、朝・昼・晩で6時間使ってしまいます。

半固形の栄養材であれば、看護師さんがシャンプーの詰め替えの要領で胃ろうへ流し込んでいく形になります。
その作業自体は5~10分程度で終わり逆流のリスクも少なく、流し込んだあとの安静臥床時間が30分程度で済むので利用者さんの時間を有意義に使うことができます。

デメリットとしては、液体の栄養剤に比べて看護師さんの注入の工数が多いため、半固形の栄養剤の利用者さんが増えると看護師さんの負荷が増大してしまいます。

と、ここまで偉そうに書いてきましたが、僕も出来ていないことがたくさんありますし、職場環境によって出来ること出来ないことがあると思います。
ケアマネ、リハビリ、看護、みんなで協力できたら良いですよね。
あと介護士の人数……フヤシテ……。

まとめ

そもそも人間の幸せについてもよくわからない上に千差万別なのに、寝たきりで食事を口で食べられない方の幸せなんて本当に考えても考えても答えは出てきません。
僕らはそうなった方の生活のお手伝いをするのが仕事なので、出来る限りのことはやっていきたいと考えていますが、あまりうまくいかないことも多々あります。

ご自身のご家族を胃ろうにするかどうかの選択を迫られたときに、お医者さんの意見が大切なのはもちろんですが、残念ながらお医者さんは生活の現場を見に来るわけではありません。
胃ろう高齢者の方全てが僕がみてきたようになるわけではありませんが、こういう未来もありえるんだな、ということは心に留めて頂き、選択の一助になれましたら幸いです。

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Posted by たくろう