僕は今、アルコール中毒なんです

日記#3000文字チャレンジ

僕はアルコール今、中毒なんです。

こう申しますと

「酒を飲まずにはいられない人」
「酒が抜けると手が震えたりするんでしょ」
「飲んではいけないと思ってても隠れて飲むんでしょ」
「車を運転しなきゃいけないのがわかってるのに飲むクズ野郎!」
「ほらブタァ! 週に2日くらい酒を絶ってみなさいよ! できないんでしょ? ブヒブヒ情けなく鳴いてみなさい! 上手に鳴けたら消毒用アルコールスプレー掛けてあげるわ!」

なんて印象を持たれることでしょう。

最後の一文はよくわかりませんが、アルコール中毒と言われて連想されますのは大体このような人相でしょう。

違うんです。
ちょっと待ってください。

今申し上げましたのは、アルコール依存症の人相なのです。

僕はアルコール依存症ではなく、アルコール中毒なんです。
今、まさに、アルコール中毒なんです。

ご理解いただけますか、この差異が。
ちょっとごめんなさい。横にならせてもらって良いですか。

ウェー……ヨイショ……。

失礼失礼。
どうにもこうにもダルくて仕方がないものですからね。
ご勘弁いただきたい。

良いですか。

再度申し上げますが、僕はアルコール依存症ではありません。

アルコール依存症とは……アルコールが体内から抜けますとイライラしたり、頭痛や吐き気、手の震えや発汗、頻脈、動悸、不眠といった、いわゆる離脱症状が発現する……と、こういう病です。

僕はアルコールが体内から抜けたところで、このような症状が出るわけではございませんから、アルコール依存症とは言えないわけです。

アルコール依存症とは否認の病とも言われ、本人はアルコール依存症と認めたがらないものだと言いますが、断じて違います。
僕はアルコール依存症ではありません。

いやいや、違います。
勘弁してくださいよ。本当に違いますから。

アァ!? 違うっつってんだらグゥラアアァ!

……失礼。
あまりに物言いがシツコイものですから、ついついイライラとしてしまいました。

え? 違います、違います。
酒が抜けたからイライラしているなんて、そんな。
僕はアルコール依存症ではありませんからね。

僕は今、アルコール中毒なんです。

そもそも中毒というものは……(震える指先でスマホをイジクリまわしつつ)体内に毒性のある物質を許容量以上に取り込んだことにより、正常な機能が阻害される……という状態を指します。

つまり、僕は昨日、久しぶりの友人たちとしこたま酒を飲んでしまいましてね。
それはそれは楽しい会合でしたよ。

昨今、コロナによる自粛に次ぐ自粛がありましたでしょう。
飲食店も酒類の提供を22時までに自粛などされておりましてね、こちらとしましては22時にお開きとなる飲み会なんてのは飲み会に入らなかったわけですよ。

飲むならば終電まで。
ワンチャンでオールナイトも辞さない。

そういった、生きるか死ぬか、デッド↑オア↓アライブ↑の精神で普段酒を飲んでいるわけですから、22時までの飲酒なんていうのはオママゴト。オヘソがブンブクチャガマを沸かすとこういった次第であったわけです。

それがここにきて、飲食店への自粛要請解除と、鶴の一声があったわけですからね。それはそれはもう喜び勇んで酒場へと足を運びましたよ。

そして酒池肉林の大宴会。唐の皇帝もそこまではという乱痴気騒ぎを致しましてですね、大変に幸せなひと時を過ごしたわけです。

えぇ? ドンナ話をしたかって?
それはもうねえ……ハテ……まあ、良いじゃないですか。話の内容なんてものは一期一会でございますよ。

いやいや、断じて覚えていないわけではないんですよ。ただ、少しばかりの頭痛がありましてね。これが僕の思考を遮っているだけで、後ほどになりましたら全てをサッパリ話してご覧にいれましょう。

それでですね、つまり、僕は昨日しこたま酒を飲んでしまったために、一時的なアルコール中毒の状態なのです。
アルコールを多量に体内に取り込んでしまったことによる中毒、いわゆる二日酔いというやつなのです。

決してアルコール依存症というわけではないのです。
アルコール中毒の状態なのです。

(やおら立ち上がり、冷蔵庫の冷凍の引き出しから青いパッケージの細長い袋状のものを持ち出してくる。パッケージにはカバのように大口を開けたキチガイじみた顔の少年の図画が印刷されている)

いやいや、失礼失礼。
やはり二日酔いにはこれですね。このソーダ味が五臓六腑に染み渡りますよ。
(袋を開け、棒の刺さったアイスを取り出すと目を細めながらかじりだす)

いやはや、本当に参ってしまいますね。

そうそう、二日酔いといえばですね、僕、ライチがダメなんです。
ライチが食べられないんですよ。

何故かって言いますとですね、まだまだ若いハタチそこそこの頃、アルバイト先の先輩たちと酒を飲んで、よくカラオケに行っていたんです。

その先輩たちはですね、しこたま酒を飲んで、良い加減を通り越して泥酔といった風情になりますと、カラオケの採点機能を使ったゲームを始めるんです。

このゲームと申しますのは『採点点数が一番低かった者が酒を一気飲みする』という、現代社会では考えられない、モラハラ、アルハラ待ったなしのゲームという体裁を取っただけのハラスメント。

イケイケ昭和の禍根。イン↓スタ↑で最高の仲間とB↑B↑Q↓しているようなパリピ↓の若者ですら身震いする地獄のルールが定められたものでございます。

ここで地獄と申しますのは、もはや先輩たちにはわかっているのです。

先輩たちの採点点数は大体90点前後。
どんなに失敗しても80点後半を叩き出します。

対して、僕の点数はどんなに頑張って、情熱を込めて、感情を揺さぶって、全身全霊をもって歌ったとしても70点台。

感情を理解できない冷徹な機械によって、僕の精魂を込めた歌は、70点台という断頭台へと連れて行かれるのです。

先輩たちにはわかりきっているのです。
僕が採点点数が一番低いということが、完全にわかりきっているのです。

わかりきった上で、このハラスメントゲームをやろうと提案しているのです。
わかりきった上で、年少で拒否権がなく、カラオケ採点70点台の僕に、この恐ろしいゲームを提案しているのです。

これはいうなれば魔女狩り。
宴もたけなわとなったこの場を収めるため、僕という歌の下手な魔女を機械採点という冷徹な裁判にかけ、アルコールという地獄の業火で焼くための体裁を繕ったに過ぎないのです。

僕は魔女なわけですから、結果のわかりきったこのゲームに参加するしかないのです。魔女裁判に魔女が参加しないわけにはいかないのです。

そこそこ点数の取れそうなミスチルのシーソゲームを歌ったところで、結果は運命のイタズラを考慮しても最下位がわかりきっているのです。
何も揺れないシーソーゲーム。これはもはやゲームというよりもただの死体蹴り。

当然のように僕は負け続け、無情に届けられる酒を片っ端から飲み干していきます。「(シーソーゲーム)過ちを繰り返す人生ゲーム」と歌いながら、ザバザバと水をかぶる巫女の禊の如く、ザバザバと酒を飲み干していくしかないのです。

そして何周目かの魔女採点の後、先輩の1人がこう言います。

「そろそろ次で終わろうか。最後だから次に負けたやつはこれイッキな」

そう言ったその手に握られているのはビールジョッキ。

ですがその中身は、麦焼酎とライチリキュールが半々で割られた奇跡のカクテルなのです。

ライチリキュールは、そこらの女子供が飲むような、よくわからない漢字が使われているライチチュウとかいう甘ったれたものではございません。
度数高めのパライソライチなのです。

このパライソライチと、また訳のわからない見たことのないような麦焼酎と半々で割られたもの。これを飲むことでしかこの飲み会は終われないぞ、と。
先輩はそう宣言するのです。

「負けたやつがイッキをする」というルールをもはや無視しているかの如く、先輩の視線は僕の顔から動きませんでした。僕はAh…お望み通りUpSideDownと言うしかございませんでした。

そこからの僕の記憶は定かではございません。

気がつくと帰路についてはいたのですが、自立歩行をすることが困難になっており、前に進むためにはフェンスに体を預けてズリズリと進む他ありませんでした。

途中の歩道橋の階段などは、完全に四つ足。
登るよりも降りる方が苦労したのを覚えています。

そうしてやっとの思いで自宅に戻りますと、息も絶え絶えにトイレに駆け込みます。

当時の自宅のトイレはユニットバスでして、トイレの横に洗面台がある仕様でした。ユニットバスは狭苦しく、また体を洗う場所のすぐ隣にトイレと洗面台があることに嫌悪感を感じていたものですが、この時ばかりはこの作りに大変救われました。

何故かと申しますと、トイレに座りながら洗面台に嘔吐ができるわけです。

尻から水を出しながら、口からも水を出す。
まさに壊れた小便小僧のように、上からも下からもアルコールを吐き出すことができたわけです。

ええ、お気づきかと思いますが、その吐瀉物の臭気たるや、まさに南国。
常夏の果実、ライチの臭いなのです。

僕はその奇跡のライチカクテルを飲む瞬間まで、別段ライチというものが好物でも苦手でもありませんでした。

まあ、なかなかライチが今生において唯一無二の好物であるという方は日本にはあまりいらっしゃらないかとは思います。
むしろ意識して食べない限り、あまり馴染みのない食べ物だと思います。

僕も皆様と同じくライチに馴染みはなかったのですが、奇跡のライチカクテルを飲んだことにより、体が完全にライチの匂い=毒物と理解したようでして、もうライチの匂いだけで気分が悪くなるのです。

ライチ=ヤバイとなるのです。

ただでさえアルコールによる中毒症状で気分が悪いのに、さらにライチの臭気による気分の悪さも加わり、もはや僕の嘔吐と下痢は滝のようでした。
気持ち悪くて吐き、吐いたらその臭いでまた気持ち悪くなる。

ジャパニーズナイアガラ! と、米国人が見ていましたらそう表現したことでしょう。

ええ、それ以来ですね。
ライチが食べられなくなったのは。

いや、もしかしたらライチ自体は食べられるのかもしれません。
しかし、ライチのフレーバーは確実に受け付けない体になりました。

ええ、本当に中毒症状というのは恐ろしいものですよ……。

いやあ、熱心に話してしまったせいで、動悸もしますし、汗もかいてしまいましたね……チョイと失礼。

……お待たせしました(ワンカップのフタを開けながら)。
え? これですか? いや、熱心に話しましたら喉が渇いてしまいましてね。今日は休みですし、酒でも飲もうかなと思いまして。

ええ、もう二日酔いもだいぶ良くなりました。
迎え酒は二日酔いに効く、なんて言葉を信じるわけではありませんけどね、こうして酒を飲みますと気分が落ち着くんですよ。

(喉を鳴らしながらワンカップを半分ほど飲む)いや、効きますなあ。案外にね、ワンカップは旨いんですよ。

え? アルコール依存症じゃないか?
いやいや、違います。そんなわけはないですよ。

ついさっきまでアルコール中毒ではありましたけどね。アルコール依存症だなんて、ソンナ……(ワンカップを飲み干しながら)。

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