変化する普通と異常な腕立て伏せ

僕たちの「普通」は常に変化していきます。

「これが普通だよね」

「普通はこうだよね」

僕たちはこうした表現をよく使います。
しかし、この「普通」は、いつの時代も通用するものではありません。

例えば昭和の生活での「普通」と、令和の生活での「普通」はかけ離れています。

昭和にタイムスリップしたとして、「えー、スマホ決済できないとかマジありえなーい」とか言ったところで、当時の人々からしたら「何いってんだこいつ。鉄格子付きの窓のある部屋に入れとこ」となるわけです。

平成の時代に生息していたヤマンバギャルだって、あ、ヤマンバギャルってのは1990年代~2000年にかけて渋谷や池袋を中心として流行した女性のファッションでして、ガッチガチに日焼けした肌に金髪や白髪、その他奇抜なカラーリングのヘアスタイルに白く塗った唇と目元、ルンバのブラシみたいな付けまつ毛に魔女のようなネイルをつけていて、というかまあ、一言で言うとアフリカのシャーマンを思い浮かべてください。そのシャーマンのなかでも悪い方のシャーマン、それがヤマンバギャルです。
そのヤマンバギャルが「普通」に闊歩していたなんてことは、今では考えられないわけです。

その時代に合わせて、僕らの「普通」は変化していきます。
以前には非常識、異常だったことも、時代が変われば当たり前、常識になっていく。
「普通」という認識は常に変化していくものなのです。

でも絶対に変わらないもの。
変わってほしくないものも存在します。
その出会いは今から十数年前。

当時の僕はまさしくエロゲーフリーク。
その頃の僕は、ちぎっては投げ、ちぎっては投げと湯水のようにエロゲーを消費していました。
その中の1本で、もはやタイトルも何もかも失念してしまったんですが、衝撃的な作品と出会ったんです。

昔の話なので内容すら薄ぼんやりしちゃってるんですけど、設定としては、なんかめちゃくちゃ金持ちの子供が通う私立学園がありますと。そこは表向きは文武両道をウリにした高級な学校なんですが、実はウラでは学生にエロい調教を施して娼婦として売りさばくという、反社会勢力も真っ青、桜を見る会より桜を見る会みたいな事業を展開している場所ですと。
そんなチョーヤバい学園に、闇の調教師として名を馳せた主人公が教師として赴任し、学生を娼婦に堕としていく……というお話です。

まあエロゲーって基本的には「こんなゲームをやっていることを知られたら社会的に死ぬ」みたいなゲームじゃないですか。所持しているだけで社会的評価が30下がるみたいな、呪いのアイテムみたいなところあるじゃないですか。というのは、「こんな非人道的なストーリーのゲームをプレイするなんてありえない! 犯罪者予備軍!」とか言われても仕方がないくらいに反社会的なストーリーなんですが、正直、これくらいのひどいストーリーのエロゲーってよくあるんですよ。
反社より反社みたいなこんなお話でも、エロゲーフリークだった僕としてはまあ「ふぅん、まあよくあることだよね」くらいなモンだったんです。
「闇の調教師」ってなんだよ。どうやって名を馳せてんだよ。ランサーズにいるのかよ。とか思いはしましたが、まあいるんだろうね、程度。

で、この主人公はターゲットとして生徒会長の女の子に目をつけます。
そして「お前は生徒会長だから、学園のことをもっと知らなければならない。この学園にある全ての部活を体験してこい」と指示を出します。

おうおう、なんかマトモなこと言ってるじゃねえか。
教師っぽいこと言ってるじゃねえか。闇の調教師のくせに。

と、思いはしますが、そこはそれ。そこはエロゲーなので、生徒会長が指示通りに部活に訪問すると、行く先々でエロいことをされます。
バレー部ではネットに拘束されてエロいことを、剣道部では竹刀でTゾーングリグリとかのエロいことを、水泳部ではスク水を着て水中でエロいことを。
粛々と行く先々でエロい目にあい続けます。

まあエロゲーなんでね、エロいことが起きるのはいいんですよ。ハンバーガー屋に行ってハンバーガーが出てくる並に至極当然のことですよ。

それはいいんですけど、この行く先々でのエロいことって、普通に学生がやってるんですよ。生徒会長の同級生とかが、普通にエロいことやってる。

いやいや、エロいことしてるって学園の裏の顔じゃないの? そういうイメクラでーすってノリで堂々とエロい事してるじゃん。めちゃくちゃ堂々と学生にエロいことさせてるじゃん。
こんなもん絶対外部に情報漏れるでしょ。
森友学園より森友学園みたいな学園だよってバレちゃうでしょ。
どうなってんだよ。舞台設定グズグズだよ。

そんな調子で部活を巡って調教されていく生徒会長。
ここまでも十分グズグズだったんですけど、まあエロの体裁は保っていたんですよ。
エロゲーとして最低限の矜持は保っていた。

でもウェイトトレーニング部ってところがね、本当に心の底から意味がわからなかったんです。

「どうせ今日もエロいことされるんだわ……」と諦め顔でウェイトトレーニング部へ向かう生徒会長。
そこではムッキムキの、なかやまきんに君の胸筋から生まれましたみたいな兄ちゃんが待ち受けていました。

「何よ、筋肉ばっかりのバカのくせに!」
「おっ、言ったな! じゃあ生徒会長は俺達の地獄の練習メニューをこなせるのか?」
「筋肉バカの出す練習メニューなんてお茶の子さいさいよ!」

みたいな、まあ控えめに言ってインドにおけるコーラの価格よりもどうでもいいやりとりを経て、生徒会長はウェイトトレーニング部の地獄の練習メニューに挑戦することになります。その内容がマジで常軌を逸している。

なんか腕立て伏せをやらされるんですが、目の前にうんこの入ったどんぶりを置かれるんです。

念の為もう1回いいますけど、腕立て伏せをやらされるんですが、目の前にうんこの入ったどんぶりを置かれるんです。

腕立て伏せって腕を曲げたときに床に顔が近づくじゃないですか。
その顔が近づく場所、自分の両腕の間にうんこの入ったどんぶりを置かれるんです。
その状態で腕立て伏せをしろってことらしいんです。

もうね、本当に意味がわからない。
泣きそうになるくらい意味がわからない。

全然意味がわからないけど生徒会長も律儀にその状態で腕立て伏せ始めるし。
「うぅっ、く、くさい!」とか言いながら腕立て伏せやってるし。
なかやまきんに君の胸筋から生まれた兄ちゃんは「どうだ! 出したてのうんこだぞ!」とか言ってるし。
オーディエンスは「ははっ、会長、頭にハエが止まってますよ!」とか言ってるし。

なにもかも意味がわからない。
なにが「どうだ!」なのか皆目検討がつかない。

生徒会長は20回くらいの腕立て伏せで「も、もうだめ……ゆるして……」とか言って、律儀にうんこどんぶりの中に顔つっこんで気絶するし。
もうツッコミどころが多すぎて手が回らないけど、僕ならとりあえず倒れ込むときにうんこどんぶりから顔そむけるわ。

もうね、本当に心の底から開発陣に問い詰めたい。
お前らはこのシーンでプレイヤーたちが「たwwwたまらないでござるwwwコポォwww」とかいって興奮すると思ったのかと問い詰めたい。
そうだとしたら完全に異常だし、そう考えていなかったとしても「じゃあなんでこんなシーン作ったんだ」って話になる。どう転んでも常軌を逸している。どう考えても頭がおかしいとしか言えない。

いくら僕たちは変化していくのが普通だといっても、このうんこどんぶりを受け入れられるように変化するとは思えない。
150年後に「腕立て伏せをするなら目前にうんこどんぶりがトレンド! インスタバエ!」とかなっているなんて思えない。

どれだけ時代が変化しても、どれだけ僕たちの「普通」が変化しても変わらないもの。
「愛」という情念すらも変化していく僕らのなかで、決して変わらないもの。

それは

「うんこどんぶり腕立て伏せとかマジでありえない。心の底から意味がわからない」

というこの気持なのです。

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