【ネタバレ】映画ダークナイト感想 レイチェルってジョーカーじゃんって思った
クリストファー・ノーランが描く「ダークナイト・トリロジー」と呼ばれる「バットマン3部作」の2番目のエピソード。
バットマンシリーズのくせに「バットマン」の名を冠していないタイトル。
噂に名高い「ジョーカー」が登場し、ヒース・レジャーの演技が光る作品となっています。
監督:クリストファー・ノーラン
脚本:クリストファー・ノーラン、ジョナサン・ローラン
【キャスト】
クリスチャン・ベール(ブルース・ウェイン)
ヒース・レジャー(ジョーカー)
アーロン・エッカート(ハービー・デント)
マギー・ジレンホール(ケイティ・ホームズ)
ゲイリー・オールドマン(ジェームズ・ジム・ゴードン)
前作「バットマンビギンズ」で誕生したバットマンがゴッサムシティの秩序を正し出したことで、「働きにくいっすわあ」となった犯罪者たち。
バットマンとゴードン警部補が協力して、強盗や殺人、ドラッグ、汚職や賄賂などがズンドコ取り締られていきます。ていうかまあ今までのゴッサムシティが無法地帯すぎたんだよね。犯罪の宝石箱みたいだったもんね。
さらに汚職や賄賂を断固として許さずゴリゴリに法廷で戦う姿から「光の騎士」とも呼ばれる新進気鋭の検事ハービーまで出現し、まさに犯罪者たちは瀕死となります。大丈夫? 息してる?
バッドマン、ゴードン警部補、ハービーの活躍で、ゴッサムシティは徐々に清流四万十川みたいな清らかさを獲得していきます。
しかし、そこは犯罪の宝石箱。そう簡単に清純にはなれません。清純派としてデビューが決まったけど実は中学生の頃から8股してたことが明るみになったアイドルみたいなもんですよ。過去は簡単には消せない。本性を隠しては生きられない。何の話これ。
そう、ここで狂気の犯罪都市ゴッサムシティが生んだ犯罪者「ジョーカー」が登場します。
ルール外の存在、犯罪の申し子、ジョーカー
このジョーカーってのは何がすごいかっていうとですね、まずは冷静、冷酷。
強盗の際には淡々と盗みを働き、用済みになった仲間はドシドシ殺していく。警察に拘束されてもわずかなチャンスをモノにして一発逆転して脱獄する。うん、普通に優秀。
そんで人間心理に長けていて、計算高い。
バットマンや警察官を煽り散らかしてチャンスを作ったり、ハービーをそそのかして闇堕ちさせたり、人の心をめちゃくちゃ手のひらで転がしまくる。
そして多分頭がおかしい。狂気。狂ってる。
バットマンにゴリゴリに殴られても「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ」って笑いまくってますし、バットモービルにも生身でチキンレースを挑んでいく。バットマンんの素顔にも尋常じゃなく固執する。スマホの検索履歴に「バットマン 正体」「バットマン 誰?」とかのワードがめちゃくちゃありそう。多分バットマンのことが好きすぎておかしくなっちゃったんでしょうね。バットマンに「お前が欠けたら生きていけない」とか言ってますしね。メンヘラかな。
そんなジョーカーは「ルール」の外側にいる存在として語られます。
ふつうの犯罪者は犯罪行為に対して「目的」があります。
殺人の場合には例えば「恨みを晴らしたくて殺した」みたいな目的がありますし、強盗する場合には「お金が欲しい」という目的があります。
しかしジョーカーは犯罪それ自体が目的。マナーや法律、ルールを破ること、犯罪自体を楽しんでいるんですね。
バットマンに捕まったジョーカーの仲間は「お前はルールを守る正義の味方。だがジョーカーは正反対」と言っていますし、「悪党の心理は単純だ。狙いを読めばいい」とドヤるブルースに執事のアルフレッドは「お言葉ですがジョーカーはあなたにも理解できますまい」とバッサリ。ていうかアルフレッド、ジョーカーの理解深すぎない? 曲がりなりにも世界⭐︎犯罪紀行で犯罪者心理を間近で見てきたブルースに対してこれですよ。「あの犯罪紀行はおままごとでしたね」って言ってるようなもんですよ。何者だよアルフレッド。
まあ事実「悪党の心理は単純」ってドヤってたバットマンは、あわやマスクが暴かれるかってところまで2回も追い詰められてますけどね。ていうか別にマスク脱いだって良くねえかな。なんなの? 恥ずかしいの? 覆面レスラー的なものなの?
そんな狂気の快楽犯罪者、ジョーカーは言います。
「ルール無視が賢い生き方だ」
確かに今のゴッサムシティでは、清く正しくルールを守って生きている人間が弱者となります。
ゴッサムシティの浄化に尽力した資産家であるブルース=バットマンの両親は、ケチな強盗に射殺されてしまいました。
バットマンやゴードン警部補、ハービーが犯罪者を殲滅していってはいますが、彼らはしぶとく犯罪行為を犯しています。
正攻法では汚職を潰しきることは難しく、バットマンのようになるべく殺さないよう素手で、フィジカルのみで犯罪者に立ち向かうのは疲弊してしまう。
確かにゴッサムシティでは、ルールなんて無視して生きる方が楽で、賢いのかもしれない。
ここでふと、僕は気づきました。
レイチェルってジョーカーじゃん。
ルール外の存在、恋愛の申し子、レイチェル
レイチェルってのはゴッサムシティの検事で、ブルースの幼馴染であり、バットマンの正体がブルースであることを知っている理解者です。
お互いに惹かれあっていて、レイチェルはブルースがぶらり世界犯罪紀行に旅立っている間、刑務所でチンピラと殴り合ってる間、ヒマラヤで青い花探してる間、「影の集団」とかいう厨二病を患っている集団と修行している間、ずっと帰りを待っていました。
前作「バットマンビギンズ」のラストでは「ブルースが帰ってくるのを待っていた。でも、帰ってきたのはバットマンだった。いつかブルースが帰ってくるのを、ずっと待ってる。マスクを脱ぐその日を……」みたいな、もうこれほぼほぼ婚約じゃんっていう、完堕ちじゃんみたいな発言もしています。僕ならもうこの瞬間マスク燃やすわ。なんかあのよくわからないコウモリの形した手裏剣みたいなやつ溶かして結婚指輪にするわ。
ここまでガチガチにお互い将来を約束してるんだから、そりゃあもう今作でいいとこまでいくんだろうなと思ってたわけですよ。ダークナイトが白むまでベッドで過ごすんだろうなって思ってたわけです。ダークナイトがホワイトナイトになるんだろうなくらいは思ってたわけ。そんな意味わかんないこと考えてたわけ。
そうしたらですよ、映画開始15分で新進気鋭の若手検事、ハービーとめちゃくちゃイチャついてるんですよ。裁判が終わったと思ったら「午後は休んで気分転換なんてどう?」とか言ってるんです。何ですか、休んでってそれはあれですか、休憩ってことですか。国道沿いのなぜか駐車場に目隠しがされてる施設で休憩ってことですか。どういうことですか。
ハービーもハービーで、モブの女に「もしかしてハービーがバットマンだったりして?」とか言われて「毎晩僕が外に出ていたら気付く人がいるよ」みたいな返答しつつレイチェルの手を握ったりしてるんですよ。
しかもこれ、ブルースの目の前でやってるんですよ。
ちょっと待ってほしい。これはどういうことなのか。一体何が起きているのか。
えっと、これは、つまり、レイチェルが二股しているということでよろしいか。
しかもされている側の男性2名、ブルースとハービーはそれに気づいている、ということでよろしいか。
ちょっとここで劇中の揺れ動く(笑)レイチェルの恋模様をあげていくと
- ハービーにプロポーズされるも「分からない」とはぐらかす
- ジョーカーに命が狙われた時、ハービーに「安全に逃げられる場所はあるか」と聞かれ「ブルースのペントハウス」としゃあしゃあと答える
- ハービーがバットマンとして留置所に行く間際ベロチュー
- ブルースに「いつかバットマンを辞める時が来たら結婚しようと言ったね」と迫られ「私を幸せへの切符だと思わないで」と切り捨てる
- でも、「あれは本気だった?」と聞かれると「イエス」からのベロチュー
- からの「正体を明かしたら結婚など夢よ」←?www??wwwww???
- で、正体を明かさなかったら明かさなかったで「卑怯だわ!!」
いやまあ、分からんでもないんですよ。
かたや世界に名だたるウェイン産業の御曹司、資産家ブルース。
かたや「光の騎士」とも評される新進気鋭の検事で市長候補でもあるハービー。
こんなもんどう転んでもハッピーじゃないですか。どっちを取っても勝ち確じゃないですか。
しかも2人とも自分のことを好いていて、どっちを取るかの主導権を完全に自分が握ってる。そんな状況を楽しみたい。だって女の子だもん。うん、分からんでもない。分からんでもないけど、お前それ完全にルール無視ちゃうんか。
恋愛というゴッサムシティにおいて、清く正しく正攻法なんてしてたら楽しめない。「ルール無視が賢い生き方」だからってか。完全にジョーカーじゃねえか。
とはいえ、ルールを無視していたジョーカーも、バットマンに敗北します。
じゃあジョーカーと同一体であるレイチェルはどうなったかというと、ゴリゴリのネタバレなんですけど、死にます。
ルールとは、自分の良心によって作られるもの
ジョーカーの策略に陥り、ハービーとレイチェルはそれぞれ離れた場所で、時限爆薬と共に拘束されます。バットマンはジョーカーをボッコボコ、無抵抗のジョーカーをそれはもうボッコボコに殴りつけて2人の居場所を聞き出すんですが、ジョーカーって変態なのでレイチェルとハービーの居場所をあべこべに伝えるんですよ。
つまり、ハービーがいると言った場所にはレイチェルが、レイチェルがいると言った場所にはハービーがいるわけです。
そうとも知らないバットマンは、絶対車検通らなそうなバットモービルに乗って道路交通法ガン無視でレイチェルを助けに駆けつけますが、そこにはハービーが。
一方ゴードン警部補は普通にサイレン鳴らしたパトカーでレイチェルのもとに駆けつけますが間に合わず。
結局バッドマンが駆けつけたハービーは助かり、ゴードンが駆けつけたオタサーの姫レイチェルは死亡してしまいます。
これね、レイチェルさん、二股せずに普通にブルースとだけ恋をすすめていればこんなことにならなかったと思うんです。
ジョーカーはきっと「この三角関係の恋心を利用したコロシをしたらきっと愉快極まりないゾ!」って考えてこの状況を用意したと思うんですよ。
三角関係がなかったら、つまり「ハービーとは普通に会社の同僚です」くらいの関係性だったら、時限爆弾と一緒に拘束されたのはレイチェルさん1人だったかもしれない。1人だけなら間違いなくバットマンが違法車両で助けにくるから、きっと助かっていたに違いない。
「お前が欠けたら生きていけない」ってそういうことだったんだと思う。
ジョーカーもレイチェルも「ルールを無視」した結果、このような結末を迎えたのです。
じゃあいつどんな時もルールを守るべきか、というと、それも少し違うことをこの映画は教えてくれます。
劇中では囚人と一般市民がそれぞれ海上の船に捕えられ、お互いの船を爆破するスイッチを渡されます。そしてジョーカーは「先に爆破スイッチを押した方を助けてやる」と言います。
つまり、ジョーカーによってルールが敷かれたわけです。
この時ジョーカーは「どっちが先に押すかなあ」とニッコニコだったわけですが、結局のところどちらもスイッチを押しませんでした。
ジョーカーさんからしたら「は?」って話なんですけど、囚人も一般市民も「あんな変態快楽犯罪者の敷いたルールに乗るなんてまっぴらごめんだ」とルールを放棄したわけです。
つまり彼らは、「ルールとは自分を縛るものではなく、良心に従って自己を高めるものでなければならない」と気づいたんだと思うんです。
ルールを無視すればそれだけで強くなるというわけではなく、自分の良心に従ったルールを持っている人こそが強い。
ルール無視を楽しんだり、ルール無視の恋愛をしたりすると痛い目をみる。
ジョーカーと荼毘に付されたレイチェルは、それを僕に教えてくれました。