タイミングが悪い日

何もかもがうまくいかない、全てがなんだかかみ合わない。
そんなタイミングの悪い日ってあると思うんです。

その日はもう朝からひどかった。
僕はめちゃくちゃたくさん睡眠を取りたい人間で、社会不適合者レベルで朝が弱いんです。
特に出勤の日なんかは、仕事をしたくない、職場に行きたくないってのも相まって、本気で起きたくないんですよ。1分1秒でも長く寝ていたい。布団から出たくない。
そんな壊滅的な朝を迎えるもんですから、まあ毎度毎度遅刻ギリギリの時間に家を出るわけです。

その日も同じようにB’zみたいになりながらギリギリの時間に家を出たんですけど、タバコが残り少ないことに気づいたんです。
これはいけない。ストレスの巣窟みたいな職場へ赴くってのに、精神安定剤たるタバコが切れるなんてことはあってはならない。タバコが切れると同時に僕もキレてしまうかもしれない。ていうかそもそも昼メシも買わなきゃいけない。

そんなわけでコンビニに寄る必要があるんですが、幸いその日はギリギリに出発した割に乗るべき電車の出発5分前に駅に到着。コンビニはマジで駅の目の前、徒歩5秒くらいの距離にあるので「まあ5分もあればコンビニくらい寄れるっしょ」の精神でコンビニに行ったんです。でもそれがいけなかった。

僕は大体カップラーメンとおにぎり1つを昼食としているんで、颯爽と入店して流れるようにカップヌードルシーフードとチャーハンおにぎりを掴みレジへ。
レジにはお客さんが3人ほど並んでいて、レジは2台とも開放されてる。
「結構並んでるな」とは思いましたが、どっちにしろ昼メシとタバコは必要なので並んだんですよ。「まあ大丈夫っしょ。いけるいけるー」っつって並んだんです。並んだんですが、これがまあビタイチ列が進まないんですよ。

なんかよくわかんないんですけど、片方のレジでは「チャージが……」「カードで……」みたいなことやってるし、もう片方のレジでは「肉まんとファミチキ。あとコーヒー」とかやってて、なんかもう全然進まないんです。しゃらくさい恋愛映画みたいに物事が全然進展していかないんです。
マジかよー、こんなにタイミング悪いことあるのかよーって思いながらヤキモキしているとようやく僕の番になり、バーコードを読み込んでいる店員さんに「タバコ29番、2つお願いします」と注文。なんか「ヤン」みたいな名札着けたアジア圏の女性が「アイ」とか言いながらタバコ持ってきてくれたんですけど、銘柄が全然違うんですよ。ショートホープとパーラメントくらい違うんですよ。何言ってるかわかんないかもしれないですけど、僕も全然意味がわからなかった。
こんな急いでる時に間違えるなよタイミング悪すぎだろと思いつつ「いや、あの、29番です。29番」ってもう一回改めて注文すると、ヤンがタバコケースを見つめて「アー、シナギレ。スイマセン」とか言うんです。
マジかよ。じゃあ番号のところに品切れって書いておけよっていうか本当に品切れか? めんどくさくなってねえか? とか思いつつ、もう時間もないので「ア、ワカシタ」つって会計を済ませて駅へダッシュ。
うん、駅まで5秒なのに無事に乗り遅れました。もう最悪。

しょうがないから職場の最寄駅近くにあるコンビニにもう1回寄って、タバコ買って、マジで遅刻ギリギリだからめちゃくちゃ走って、ハアハア言いながら出勤ですよ。もう労働意欲激減ですよ。そもそも少ない労働意欲がほぼゼロですよ。

でもまあしょうがないんでね、こっちもいい歳したおっさんなんで、なんとか仕事をするわけですよ。単独では生きていけない高齢者の生活をサポートするわけです。汚れた尻を洗うためにウォシュレットかけたら「うおおおおおおおお!」とか言って立ち上がって汚物をかすめた液体をぶちまける高齢者の生活をサポートをするわけです。
そんでなんとか昼休憩となって、「もう死にたい。とりあえずメシ食おう」ってことで休憩室に行くわけですよ。

僕の勤めている施設の休憩室ってのはまあ豚小屋みたいなもんでして、TVの置かれた2人掛けのテーブルが1つ、多分リハビリで使ってたんだろうなみたいな、小さい施術ベッドみたいなのがソファ代わりに1つ置かれているんです。
んで僕が休憩室に入ったら、顔は見たことあるけど喋ったことない同僚のおっさんがテーブル席に座っていたんですよ。

これって僕がめちゃくちゃ陰キャだからかもしれないんですけど、昼メシってできるだけ1人で食べたいんですよ。
いや、外食に行く時とか飲みに行く時とかは全然気にならないんですけど、職場の昼メシに限っては、できるだけ1人きりで食べたいんです。
だってなんかこう、嫌じゃないですか。
カップラーメンをジュルジュルする音とか、鼻をすする音とか、ちょっと咽せちゃった音とか、そういうのを全部聞かれるんですよ? おっさんのモノを食うサウンドを聞かれるんですよ? 何のメリットがあんの? って話じゃないですか。端的に言うと地獄じゃないですか、こんなもん。

でもまあ、休憩時間が被っちゃったらもうしょうがないんで、タイミング悪いなあとは思いつつ仕方なくカップヌードルを啜るんですけど、もうね、休憩室に響く音が僕のカップヌードルを食う音オンリーなんですよ。
テーブル席に座ってる同僚のおっさんも昼メシ食い終わったならどくなり、TVが目の前にあるんだからTVくらいつけてくれりゃあいいのに、地蔵みたいになりながらスマホを眺めてるだけ。完全に無音。なんだ、僕のカップヌードルを啜る音を録音してるんか。狂ったASMSの収録現場か。

しかもですね、タイミングの悪いことに、今日の昼メシはカップヌードルの他にチャーハンおにぎりなんですよ。
僕、チャーハンおにぎり大好きなんですけど、チャーハンおにぎりって食べにくくないですか? 崩れやすくてポロポロこぼれたりするじゃないですか。
1人で食べる時は外見も何も気にせず、ケモノのようにフィルムをむしゃぶりつくす勢いで食べるんですけど、今日は地蔵のおっさんがいる。ヌードルを啜るほかにチャーハンおにぎりをしゃぶるASMSまで収録されてしまう。恥ずかしい。
そんなわけでチャーハンおにぎりを崩さないように、こぼさないように、この合コンに勝負をかけてるOLみたいになりながら神経擦り減らして食べました。
めちゃくちゃ疲れた。

昼メシ食っただけなのにゲンナリしちゃって、「もういい、こんなところに居たくない。早くタバコ吸いに行こう」と思って休憩室を出てすぐ傍にある自販機でジュース買ってたんですけど、そしたら休憩終わったみたいで地蔵のおっさんも休憩室から出てきました。
今かよと。お前今出て来んのかよと。
ほんと最悪のタイミングですわ。何ならおっさんが出てくるところを目撃しなかったらまだ納得できてたかもしれない。もしくはマジで狂ったASMS収録してたとしか思えない。

全てのタイミングがかみ合わない。
そんな日でした。
甚大なストレスのおかげでタバコはうまかったです。

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日記

Posted by たくろう