王者伊勢丹のトイレがすごかった
先日、伊勢丹に行ってきたんですよ。
伊勢丹といえば、1886年創業の日本を代表する老舗百貨店であり、2008年には同じ百貨店である三越を経営統合。百貨店不況とされるこの時代にありながら2022年にはバブル期を上回る過去最高の売上を叩き出すという生きるレジェンド。百貨店といえば伊勢丹、伊勢丹といえば百貨店という、百貨店界の重鎮なわけですよ。
そんな百貨店界の神様みたいな伊勢丹に行ってきたんですけど、そもそも「百貨店」って、なんかこう、ピリッとした緊張感みたいなものがありますよね。
「百貨店」という言葉自体は「ひとつの建物にいろんなお店が入っている商業施設」程度のものなんですけど、デパートっていうのと百貨店っていうのでは、なんかこう、言葉の重みが違うじゃないですか。「お茶漬け食べます?」っていうのと「ぶぶ漬けどうどす?」っていうのでは言葉の重みが全然違うじゃないですか。どう考えてもぶぶ漬けの方がズシンと来る。明らかに百貨店の方が重いんですよね。
そんな、ただでさえ重量級の百貨店なのに、その中でもトップに君臨する伊勢丹に行くんですよ。そりゃあもう緊張ですよ。
普通の服で入店しても大丈夫なのかな。ドレスコードとかあるんじゃねえか。スーツじゃないと店に入ろうとした瞬間に黒服が寄ってきて「ハハハ、お客様、ご冗談を」みたいなこと言われるんじゃねえか。「あなた様にお売りできるものはございません」とか言われるんじゃねえか。そんな不安が押し寄せてくるわけですよ。まあサンダルで入店してやったけども。緊張しすぎてわけわかんなくなってクロックスで行ってやったけども。
そんな感じでビクビクしながら入店したんですけども、まあアレですわ。レジェンド百貨店とはいえども所詮客商売。ドレスコードなんてあるはずもなく、僕みたいなクソどうでもいい服装した奴らでごった返していましたわ。
エスカレーターに乗った時に前にいた髪の長いマダムがめちゃくちゃいい匂いしてて一瞬緊張しましたけど、まあその程度ですわ。
あのピッチピチの黒ジャージみたいなのに白いスニーカー履いた明らかに三代目J SoulBrothersフォロワーなんだろうなっていうチンピラみたいな兄ちゃんとかも普通にいましたし、「なぜお前が伊勢丹に……?」っていう浮浪者みたいなおっさんも普通にいましたわ。まあ僕も間違いなく浮浪者側のスタイルだったんですけど、まあ天下の伊勢丹といえどもその程度でしたわ。
こりゃあ勝ったわ。伊勢丹恐るるに足らず。
そう確信した僕はもう我が物顔で伊勢丹を歩き回ってですね、百貨店のレジェンド伊勢丹をですよ、土足でもってブリブリ歩き回ってショッピングをしてやったわけですよ。小汚いおっさんがあの百貨店オブ百貨店の伊勢丹を蹂躙しているという背徳感に背筋を震わせながらながら、自動で動く階段、エスカレーターでもって上に下にと動き回ってやったわけです。
そうして歩いているとですね、少々ブルリと催してもくるわけです。
そんなわけで、おうおう、天下の百貨店伊勢丹で用便でも足してやるかいとばかりに厠へと向かったんです。
ここでふと僕は冷静になり「しかし待てよ、ここは腐っても伊勢丹。もしかしたらトイレはとんでもないことになっているんじゃないか。秋葉原ですら100円トイレなるものがあり、そこでは謎に受付にコンシェルジュがいて『こちら空いてます』みたいなクソどうでもいい(トイレだけに!)情報を流してくれるじゃないか。もしかしたら伊勢丹ではさも当然のようにトイレコンシェルジュがいて『こちら空いてます』みたいなクソどうでもいい(トイレだけに!!)情報を流してくれるんじゃないか。それだけにとどまらず『では失礼して』とか言いながらチャックを下ろしてくれるサービスがあったりするんじゃないか。僕は今日スウェットできてしまったからチャックにとどまらずズボン自体をズルンと下されるんじゃないか。『あら、お客様はポークビッツをお持ちでいらっしゃる』とかいう辱めを受けることになるんじゃないか。それはそれでありなんじゃないか。そこから先のサービスは60分1万円とかなんじゃないか」などと考えたわけです。
危ない危ない。腑抜けた態度で気軽に伊勢丹のトイレに行っては命の危険がある。ここはレジェンド百貨店伊勢丹。何があるかわかったもんじゃない。気を緩めてはいけないときゅっと唇を結んでトイレに向かったわけなんですけど、まあそんなわけのわからないサービスがあるわけもなく、普通のトイレでしたわ。そこまで汚くもなくめちゃくちゃ綺麗なわけでもない、普通のトイレでした。海老名サービスエリアくらいのもんでした。
まあそうだよなーこんなもんだよなーと思いながら用を足していたんですけど、男性は分かっていただけると思うんですが、男性用小便器を使う時って的を絞るのに下を注視するじゃないですか。そうするとタバコの吸い殻だとかガムだとか、マナーの悪い人が捨てたであろう色んなものが落ちているのが目に入るんですよね。
ちょうど僕が入ったトイレが飲食店が軒を連ねるフロアだったもんで、メシを食ってそのままトイレに来たんでしょうね、天下の伊勢丹のトイレにも爪楊枝が落ちてたんですよ。
あらまあレジェンド伊勢丹にもマナーの悪い奴がいたもんだなあと思ったんですけど、よく見るとその爪楊枝、めちゃくちゃ太いんですよ。一般家庭で使用される爪楊枝の2倍はあろうかという、それはそれは立派な爪楊枝が落ちてたんです。下手なポークビッツよりデカかったんじゃねえか。
僕はもう震えましたね。
爪楊枝なんて使い捨てなのに、こんな見たこともない極太の爪楊枝を出す伊勢丹。そしてその紙にしたらルーズリーフ5枚分くらいになるんじゃねえかってくらい木材をふんだんに使った極太の爪楊枝をいともあっさり、こともあろうに小便器に吐き捨てる富豪の客。
ここはとんでもないモンスターたちが集まる場所だった。
やはり伊勢丹は僕のような人間がきてはいけないところだった。
そう確信した僕は、冷たい風に吹かれながら、背中を小さくして伊勢丹を後にしたのでした。