コロナに罹って少し優しくなれた

僕たちは自分で体験しないことは、本当の意味では理解できません。
人生のなかで、たくさんの経験を通して、さまざまなことを理解していきます。
そして、少しずつ優しくなれるんです。

最近急に冷え込んできたじゃないですか。
だからなのか知らないんですけど「喉が痛いなー」ってなったんですよ。
あるじゃないですか。「あれ? もしかして喉痛い? これ」ってなる時、あるじゃないですか。「もしかして風邪のひき始め?」みたいな時、あるじゃないですか。
でもまあほんと微々たるものだったんで「寝りゃあ治るかな」なんて軽い気持ちで寝床に入ったんです。酒も飲んで、いつも通り寝床に入ったんです。

そんで朝を迎えるじゃないですか。朝が来ない窓辺をもう何十年と求めているのに、全然手に入らない。もう起きなきゃ。働かなきゃ。死にたい。みたいな感じで朝を迎えるじゃないですか。
そしたら全然喉が治ってないんですよ。むしろ寝る前より喉が痛いすらある。なんならちょっと体が重い。おかしいな。つい先日の健康診断で体重はかったら身長168cmに対して体重70kgだったからかな。デブだからかな。大台にのっちゃったからかな。なんてことを考えながらとりあえず体温を測ってみたんです。まあこういう時って大体熱ないからな。まあ一応、念のためね。みたいな感じで体温を測ってみたんです。
そしたらなんか37.5℃とか出てるんです。

アレー? っかしーなー。熱あるぅ? そんな熱あるぅ? と思ってもう一回測ってみても37.5℃。ブレない。体温計も「だから37.5℃だっつってんだろ」みたいな顔してこっち見てる。「無駄なことやらせんなよ」みたいな顔で「37.5℃」って表示してる。

あちゃー。これあるね。熱あるね。ってなりましたよね。昭和の中国人のモノマネみたいな感じで「これ熱アルネ」ってなりましたよね。

まあほら、今って絶賛コロナウイルスキャンペーンじゃないですか。なんか第7波とか言ってるじゃないですか。乗るしかないこのビッグウェーブに、みたいな感じでザンザン波が来てるじゃないですか。
僕はド底辺の介護士って職業なんで、仕事柄風邪症状があった場合は即座に職場に連絡して、抗原検査だのPCR検査だのを受けて身の潔白を証明しないといけないんですよ。僕の体内には危険なウイルスは居ません! ってことを証明しないといけないんです。
でもコロナウイルスってアレじゃないですか。ゴリゴリに人が死んだりする感染症じゃないですか。
たかが一介のクソ介護士である僕がそんなビッグウェーブに乗ってるはずがない。初めて湘南でサーフィンやったら思いの外大波に乗っちゃって、真っ黒に日焼けしたロン毛の兄ちゃんに「初めてでこれか! すげえ、サーフィンの申し子や! 1000年に1度の逸材や!」って言われるみたいなことが起きるはずがない。
実際ちょっと微熱があって喉が痛いくらいで、こんなもんでコロナなんて罹ってるわけないじゃーんって軽い気持ちでPCR検査を受けたんです。白菜が安いから今日はお鍋にしようかしら、くらいの軽い気持ちでPCR検査を受けたんです。

うん、陽性でした。
ガチガチに陽性でした。

まじかー。陽性かぁー。
全然そんなコロナに罹るような場所に行ったりしてないんだけどなあ。
休みの日なんて基本的には家から一歩も出ないし、日常で行く場所といえば近所のスーパーと職場だけ。そんなリスキーな行動は基本的にしてないんだけどなあ。

まあ強いていうと職場が一番危ないよね。
利用者さんとかスタッフとか、コロナ陽性の人ゴリゴリにいるからね。
とはいえ直接関わってはいないんだけどなー。っかしいなー。

ってところでめでたく7日間自宅待機と相成りまして、職場の人たちには申し訳ない気持ち3割、休めて嬉しい気持ち7割で療養期間に突入したんです。
まあぶっちゃけ嬉しい気持ちのほうが多いとは言え、職場の人たちの気持ちはすごくわからるんです。ひとり欠勤が出るだけで途端にカツカツになるシフト構成なので、残された人たちがどれだけ大変か。僕も残された側になったことはあるので大変なのは骨身にしみて理解できる。理解できるけどまあ、あの、サーセン。

でまあ、初日こそ少しの咽頭痛と微熱だけだったんですけど、翌日がすごかった。
なんか謎に38.3℃の熱とか叩き出してるの。体温計のやつ、ちょっとドヤ顔で「38.3℃」とか言ってるの。「仕事しましたぜ!」みたいな、「やってやりましたわ!」みたいな顔してるの。
そんでめちゃくちゃ頭が痛いし体がダルいの。辛い。しんどい。頭痛い。何もできない。
もうガッツンガッツンにアイスノンで頭冷やしてました。なんかすげー目の奥とこめかみの中のほうが痛いんです。眼精疲労の強いバージョンみたいになってる。あれ? 目ん玉さん地下強制労働から帰ってきた? ってくらい眼精疲労してる感じになってる。もう目ん玉取り出して眼窩に氷詰めたい。あのオシャレな丸い氷作って義眼にしたい。何言ってるかわからない。それくらいしんどい。

そんな感じでひたすら頭を冷やしてうんうん唸りながら一夜を過ごしましたところ、どうやら峠を超えたみたいで熱は37.0℃とかに。
枕元に座ってる往診医が聴診器を外して「うん、峠は超えたみたいだね。起きたら栄養のあるものを食べさせてね」みたいなこと行って帰って行くくらいのテンションには回復。
「丸い氷作って義眼にしたい? 何言ってんのこいつ」って思えるくらいには体調が戻りました。

でまあね、熱が下がって頭痛が取れたのは良いとしてですよ。それは良いとして、喉がクッッッソ痛いんですよ。喉で何者かがバレーボールで使うネットみたいなのを張って、全てのよくないものをそこでせき止めてるみたいな感じがするんです。唾液を飲み込むにもネットにドチュッて引っかかって、めちゃくちゃ飲み込みづらい。しかもまた喉のね、ゴロゴロゴロゴロとした違和感がものすごいんです。違和感がものすごくて、めちゃくちゃ痛いんです。
なんだろう、ビンのラムネあるじゃないですか。夏祭りとかでよく見かける、飲み口のところにビー玉が入ってる昔懐かしいビンラムネあるじゃないですか。あのね、喉がね、その状態。ビンラムネのビー玉入ってるところがビンラムネよりキュッとなってて、ビー玉の動きが制限されててゴロゴロゴロゴロしてる感じ。
伝わるかなあ、わかってくれるかなあ。
喉がラムネのビンなんですよ。そんでその手前で何者かがバレーボールネット張ってるんですよ。唾液を飲み込もうとしても、ネットにドチュッてなって、ビー玉がゴロゴロゴロゴロしてめちゃくちゃ痛いんですよ。唾液を飲み込むと「ゴッ、カハッ、ングッ、グアッ!」ってなるんですよ。え? 何言ってるかわからない? なんでだよ! ドチュッ! ゴロゴロ! ンがッ! ゴアッ! ってなるの! わかってくれよ!! 喉痛いの! 辛いの!!

わかるよ。自分で体験しないことは理解できないもんね。
僕がどれだけ「痛い」「辛い」と言ったところで、体験しないことには「ふうん。大変だね」くらいなものでしょう。

でもほんとわかってほしい。めちゃくちゃ痛い。喉がめちゃくちゃ痛い。喉がめちゃくちゃ痛いとしか言えない。なんか文字数稼ぎしてるように見えるかもしれないんですけど、僕の語彙力がなさすぎてちょっとこれ以上伝える言葉を持たない。伝えたいこの気持ち。喉が、めちゃくちゃ痛い。

そんでもう意味がわからないんですけど、喉の痛みの臨界点を超えたのかなんなのかわからないんですけど、なんか耳まで痛くなってくるんですよ。喉が「もう痛みの逃し場所がなくなりましたー」ってなったのかわかんないんですけど、喉が痛すぎて耳まで痛くなってくるんです。喉を中心として耳に向かって内側から刺してくる感じ。なんか鋭利なものが耳の内部から外側へ突き出てくる感じ。

あのね、イメージとしてはね、ゲッターロボ。

ゲッターロボのイメージ
ゲッターロボのイメージ

ゲッターロボって耳から何か鋭利な突起が突き出てるじゃないですか。あんなもんが耳から出てたら痛いじゃないですか。そういうことなんです。耳から鋭利な突起が出て耳が痛い感じなんです。

このときの僕は、完全にゲッターロボの気持ちを理解しました。
完璧に、体験として、ゲッターロボの気持ちがわかったんです。

ゲッターロボってこんな不快感を感じながら戦ってたんだ。こんな痛みのなかで恐竜帝国と戦ってたんだ。メカザウルスと熾烈なバトルを繰り広げてたんだ。辛かっただろう。しんどかっただろう。
わかる。今の僕にはその気持ちがわかる。
そりゃ耳いてえよ。耳から突起が出てたらそりゃ耳いてえよ。しんどいよ。辛いよ。ゲッターロボ偉い。強いよ。お前は本当の意味での強さを持っているよ。

人は自分で体験しないことは理解できません。その状況を経験しなければ、その人の気持を本当に理解することはできないんです。
でも人は、体験することで成長します。
いろいろな体験を通して経験値を得て、さまざまな状況の人の気持を理解できるようになります。

そうして人は、少しずつ優しくなれるんです。

コロナに罹患した僕は、ゲッターロボの気持ちを理解して、少し優しくなれました。

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日記

Posted by たくろう